別冊クリナリオ|ワインエッセー 青野亜希子











セートの名物料理

パリから南へ向かうTGVに乗ると、程なく広々とした平原が見えてきます。

放牧されている家畜が悠々と歩く姿や、村か町か判断つかないくらいの家の集まり、どこまで行くんだろうかひたすら列車と並走する車を眺めながら、延々と続いていく景色にこの国の広さが実感できます。

Lyonを越えたあたりから、日差しは強く、肌に痛く、空気には少し埃っぽさと乾燥が感じられるようになり、乗り込んでくる乗客の表情からは、これから向かう眩しい場所への期待が伝わってきます。

さらに南下すると、Avignon centre(アヴィニオン・セントラル)駅から分岐し、東に向かうと南仏最大の港町Marseille。西へ向かうとNimesMontpellier。そしてその先に今回ご紹介する料理が名物の町Sete(セート)があります。

セートはラングドック=ルーション地方に属し、マルセイユに次ぐ規模の港町。17世紀にミディ運河の造営に合わせ、地中海側の出口として埋め立てられた湿地帯に築かれました。海に浮かぶような細長い土地の一角に街があるので、その様子から『ラングドックのベネチア』とも呼ばれています。


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本日のひと品

今回ご紹介するCalmar a la setoise(カルマール・ア・ラ・セトワーズ/イカの煮込みセート風)は、この街の名物料理。新鮮なイカと南仏独特の調味料アイオリを使って仕上げた、日本人好みの一品です。

<材料>
pour 4 persones(4人分)
1 calmar(するめいか1杯)
100g d'oignon (たまねぎのみじん切り100g)
1 gousse d'ail (にんにくのみじん切り1片)
100cc de vin blanc(白ワイン100cc)
150g de tomate en boitte concasse(カットトマト150g)
40g de concentre de tomate(トマトペースト40g)
150cc de fumet de poisson(魚のだし汁150cc)
persil(パセリ)
huile d'olive(オリーブオイル)
sel,poivre(塩、こしょう)

アイオリ
-10g d'ail(にんにくのすりおろし10g)
-1 jaune d'oeuf(卵黄1個)
-100ml d'huile d'olive(オリーブオイル100ml)
-sel,poivre(塩、こしょう)

バターライス
-1 verre de riz(米1カップ)
-25g d'oignon(たまねぎのみじん切り25g)
-300cc de fond de volaille(鶏のだし汁300cc)
-beurre(バター)
-sel,poivre(塩、こしょう)

<下準備>
・いかは胴・足・エンペラに分け、足は小さく切り、胴は輪切り。エンペラは細切りにします。
・オーブンを200℃に余熱しておきます。


<作り方>
①鍋にオリーブオイルを熱し、玉ねぎ、にんにく、いかの足の順にソテーし、白ワインを加えて鍋底をきれいにします。アルコール分を飛ばしながら煮詰めます。
②トマトペースト、カットトマト、魚のだし汁、塩・こしょうを加えて、弱火でいかがやわらかくなるまで約40分程度煮込みます。
③胴は塩・こしょうをしてオリーブオイルで熱したフライパンでさっとソテーします。
④②の鍋に加えて火を止め、アイオリを加えて味を整えます。
⑤器にバターライスを盛り、煮込みを盛り付けパセリを散らします。

アイオリ
①ボールに卵黄、にんにく、塩、こしょうを入れて、オリーブオイルを少しずつ混ぜて乳化させます。

バターライス
①鍋にバターを溶かし、玉ねぎのみじん切りを炒めます。
②洗っていない米を加え、米全体に油がなじみ熱くなるまでやさしく混ぜます。
③味付けした沸騰直前のブイヨンを加え、かるく全体を混ぜながら、米が液面に見えてくるくらいまで少し炊きます。
④硫酸紙を被せ、鍋のふたをし、180℃のオーブンで15分火を通します。
⑤炊き上がれば取り出し、バター(分量外)を少し入れて蒸らします。
⑥フォークでで全体を混ぜ、蒸気を飛ばします。


合わせるワイン

広大なラングドック=ルーション地方は、フランス最大のワイン生産量を誇る地域で、種類も赤・白・ロゼ・クレマン・デザートワインとほとんどが作られています。品種も多様で味わいも多彩。ただ、生産者の規模があまり大きくないこと、扱っている輸入会社がまだ少ないなどの状況もあって、日本で選べるほど取り扱われていることは稀。

そこで伺ったのが、ラングドックのワインをメインに扱う神楽坂にあるワインショップ『La cave ildeal(ラ・カーブ・イデアル)』。こちらは、小売と立ち飲みをメインにしたこじんまりしたお店です。

左手にワインが並べられたセラー、右手には立ち飲みのカウンターというシンプルな内装、天気のいい時には店先のデッキでワインをいただくことができるのか、テーブルとイスが置いてあります。

お昼前だったせいか他のお客様もなく、お店の方に作る料理と合わせるワインを探していることを話すと、ちょうどグラス売りしていたロゼワイン4種類を試飲させていただけることに。

ロゼワインは、おもに黒ブドウから造られ(地域によって違う作り方をする場合があります)、『かもし』といわれる果汁と果皮をつけて発酵させる工程にどれくらい時間をかけるかによって、色の濃さや味わいの強さを調節します。

特徴として白ワインの酸やキレもありながら、赤ワインのコクと渋みもあります。それぞれ辛口に仕上げられたものだったのですが、酸、甘み、コク、渋みそれぞれ感じる強さが違い、とても個性的。今回のお料理には、きりっとしながらもコクのあるこちらのロゼを合わせることにしました。

Domaine du Pas de l'Escalette - Ze Rose 2009
AOC Coteaux du Languedoc
品種:カリニャン40%,サンソー40%,グルナッシュ10%,シラー10%

色合いはサーモンピンク、香りはさくらんぼやイチゴのニュアンスがありとてもフルーティ。使われている品種によるものでしょうか、少しスパイシーさも感じます。味わいはドライな中にもコクがきちんとありました。

この時期南仏でよく飲まれるロゼ。旅行中に行ったレストランでも、ロゼを楽しんでいる方が多く、透明感のあるベリーの色合いは、眩しい日差しによく似合っていました。昼間の温かい日差しの中で、夏に向かって長くなる夕方に、いかがでしょうか。


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Domaine du Pas de l'Escalette - Ze Rose 2009







青野亜希子 あおのあきこ
料理家 エッセイスト
エコールキュリネール国立(現エコール辻)フランス・イタリア料理専門カレッジ卒。
ル・コルドンブルー料理ディプロム取得、銀座レストラン・ロオジェにて研修。
現在、料理教室開設に向けて準備中。