別冊クリナリオ|ワインエッセー 青野亜希子











祝祭日の料理

フランスには、祝祭日にちなんだ食事の習慣がいくつもありますが、クリスマスから約40日、2月2日のchandeleur(シャンドルール)に食べられるのが、Crepe(クレープ)です。

この日は、キリスト教で聖母マリアが幼子イエスを抱いて、神殿に詣でたことを祝う日とされていますが、今日では、暗くて寒い、長い冬を越え、太陽が輝く豊穣の季節が訪れたことを祝う日として、太陽になぞらえた黄金色に焼けたクレープを食し、その年の豊作と、それによってもたらされる家族の健康や平和を願う日になっています。

クレープを作るときには、片手に硬貨をにぎり、もう片方の手でクレープを返し、失敗せず返せれば、その年を幸せに過ごすことができると言われています。

本来の祝日の由来は薄れてしまっても、ちょっとした楽しみ方があるのが、習慣がきちんと受け継がれていく秘訣なのかもしれませんね。

ということで今回は、クレープを使った、この季節にピッタリのグラタンをご紹介いたします。


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Crepe

クレープというと、甘いクレープを思い浮かべる方が多いと思いますが、フランスでは、pate a crepe sucree(パータ・クレープ・シュクレ *砂糖で味付けしたお菓子用のもの)、pate a crepe salee(パータ・クレープ・サレ *塩で味付けした食事用のもの)の2種類があり、基本的な材料・作り方は同じです。

ポイントは、一晩生地を寝かせること、そうすると生地がもっちり仕上がります。

ちなみに、Galette(ガレット)という、クレープに似たブルターニュ地方の名物料理がありますが、こちらには、肥沃でないこの地方で取れるそば粉が小麦粉の代わりに使われ、片面のみを焼き、具材を載せて仕上げた料理です。クレープ同様に、甘いガレット、塩味のガレットがあります。

ガレットは、そもそも丸い形をしたものを指し、「ガレット」と名がつくと、一般的に丸い形をしたお菓子、料理を指します。


<材料>
pate a crepe salee(パータ・クレープ・サレ)

この分量で直径約20cm×5枚程度焼けます。

-50g de farine(薄力粉50g)
-1 oeuf(卵1個)
-170cc de lait(牛乳170cc)
-20g de beurre(バター20g)
jambon blanc(ハム)
epinard(ほうれん草)
8 champignon de Paris(マッシュルーム)
3 echalot(エシャロット)

玉ねぎでも大丈夫です。

gruyere(グリュイエールチーズ)

溶けるタイプのチーズであれば大丈夫です。

sauce bechamel(ホワイトソース)
20g de farine(薄力粉20g)
20g de beurre(バター20g)
lait(牛乳)
sel,poivre,musucade(塩・こしょう・ナツメグ)

ホワイトソースを作るときには、バターと薄力粉が同量だと覚えておけば簡単。牛乳は、使う料理に合わせて分量を変え、濃度を調節するので、量は明記していません。
ナツメグは、牛乳臭さを取るのに使います。

beurre(バター)
sel,poivre(塩・こしょう)

<下準備>
・パータ・クレープ・サレは、薄力粉と卵を混ぜ合わせ、牛乳を少しずつ加え、だまにならないよう溶きのばし、仕上げに溶かしバターを加え、塩を加え味をつけ、ラップをして冷蔵庫で1晩置いておきます。

使う際は、粉が沈んでいるので、必ずしっかり混ぜてください。

・ほうれん草は、水洗いして、適当な大きさに切っておきます。
・エシャロット(玉ねぎ)は、みじん切りにしておきます。
・マッシュルームは、小さなさいの目切りにしておきます。
・チーズは、すりおろしておきます。


<作り方>
①フライパンにバターを溶かし、ほうれん草をさっと炒め、塩・こしょうで味をつけたら取り出しておきます。
②フライパンにバターを溶かし、エシャロットを甘みが出るまで炒めます。
③マッシュルームを加え、水分を飛ばしながら、やわらかくなるまで炒めたら、塩・こしょうで味をつけ、①のほうれん草を加え混ぜ合わせます。
④鍋に、ホワイトソース用のバターを溶かし、薄力粉を一気に加え混ぜ合わせ、濃度のあった塊が、さらっとした液体状に変化してくるまで、弱火にかけながら混ぜ続けます。
⑤一度火から外し、粗熱を取り、牛乳を少しずつ加え溶きのばします。
⑥ある程度溶けたら火に戻し、温めながら好みの濃度まで調節します。
⑦仕上げに塩・こしょう・ナツメグを加え味をつけます。

置いておくときには、ホワイトソースの表面に接するようにラップをかけてください。表面が空気に触れると、膜が張ってしまいます。

⑧③にホワイトソースの一部と、チーズを加え混ぜ合わせ、バットに取り出し冷やしておきます。

冷やすことで少し硬くなり、成型の際扱いやすくなります。

⑨薄くバターを塗ったフライパンに、クレープ生地を流し入れ、両面焼き色をつけたら取り出して、粗熱を取っておきます。
⑩クレープ生地の上にハムを載せ、冷やしておいた⑧の生地を適量乗せ、巻き込むように成型したら、バターを塗ったグラタン皿に並べます。

両端はとじなくても大丈夫。

⑪表面に残りのホワイトソースをかけ、チーズをたっぷり乗せて、オーブン(オーブントースター)で焼きあげます。

中に入れる具材は、お好みで変えてみてください。
例えばアスパラガスやホタテ、エビなどの魚介類、ホワイトソースに合うものなら大丈夫だと思います。


合わせるワイン

合わせたワインは、
Pinot Blanc Rosenberg 2008 Domaine Barmes Buecher
Bourgogne Aligote 2008 Domaine Alain Chavy

ワインと料理の組み合わせは、料理の旨味を膨らませるものもあれば、重い味わいを和らげて、食べ終わるまで美味しいと感じられるようにするものがあります。

今回合わせたピノ・ブランは前者、アリゴテは後者になります。



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ピノ・ブラン(左)とアリゴテ(右)


ワインひとくちメモ

バルメ・ブシェールは、ドメーヌ・バルメのフランソワ・バルメと、ドメーヌ・ブシェールのジュヌヴィエーヴ・ブシェールが1985年に結婚したことにより、2つのドメーヌが統合されて誕生しました。

統合後、醸造所の改善改築、ブドウ畑をビオに移行したことによって品質も飛躍的に向上し、注目されはじめたアルザスの自然派ドメーヌです。
色はつやのある黄金色。

香りには熟した白いフルーツ、草木、バターなどの香り。
味わいは、程よい酸味。しっかりした骨格。エレガントでふくよかさもある。余韻も長い。

料理と一緒にいただくと程よい酸が料理の重さを抑え、一方でワインのふくよかさを料理が引き立てるといった、相乗効果でよりおいしくなる組み合わせでした。

ドメーヌ・シャヴィの歴史は、アランの祖父、ジャン・シャヴィにはじまります。その後、Jジャンの息子ジェラルド・シャヴィが、その跡を継ぎ、ドメーヌ・ジェラルド・シャヴィとなりました。現在は、ジェラルドの2人の息子が、それぞれに蔵を独立して所有しています。アラン・シャヴィはその一人です。

畑の面積は6.5ha、栽培は必要最低限の農薬のみ使用し、除草剤の使用は一切なし、収穫は手摘みです。

色はややグリーンがかったレモンイエロー。
香りにはハーブや草の香、レモン・グレープフルーツのなどの柑橘の香り。
こちらのワインと料理を合わせると、きりっとした酸で口の中がきれいになる、といった印象。

コースを通していただくとしたら、アリゴテは前菜で開けてこの料理で飲みきる、ピノ・ブランはこの料理で開けてメインにも合わせる、といったイメージでしょうか。

こういったクリーム系の料理には、シャルドネが合うとよく言われますが、「合う」とされている、シャルドネの味わいのリッチさや、程よい酸に共通するものがあれば、ほかの品種を試されてみるのも面白いかもしれませんね。







青野亜希子 あおのあきこ
料理家 エッセイスト
エコールキュリネール国立(現エコール辻)フランス・イタリア料理専門カレッジ卒。
ル・コルドンブルー料理ディプロム取得、銀座レストラン・ロオジェにて研修。
現在、料理教室開設に向けて準備中。