別冊クリナリオ|ワインエッセー 青野亜希子











ロレーヌ地方の料理

ロレーヌ地方は、フランス東部アルザスの隣に位置する地域。

アルザスの影に隠れて、あまり聞きなれない名前かもしれませんが、バカラ、エミール・ガレ、世界遺産のスタニスラス広場と名前を挙げれば、イメージがわく方も多いかもしれません。

食に関しては、海に面していない土地柄なので、主に肉類、特にシャルキトリーといわれる豚肉加工食品や、乳製品が豊富です。

また、「ミラベル」というキンカンのような果物が有名で、タルトに使ったりします。

他にもパン・デヒス、アーモンドとメレンゲでつくるお菓子・マカロンや、マドレーヌなどは耳慣れたものではないでしょうか。

料理で特に有名なものといえば、「Quiche Lauraine(キッシュ・ロレーヌ)」

Quicheの名前はドイツ語のクーヘン(kuchen・菓子)に由来し、16世紀に考案されたといわれています。

型にパイ生地を敷きこんで、ベーコン、グリュイエールチーズを並べ、生クリーム、牛乳、卵をベースにした卵液を流し入れ焼き上げた、素朴な家庭料理です。

フランスではTraiteur (トゥレトゥール・日本語で言うとお惣菜屋さん)に、必ずと言っていいほどおいてあり、種類もこのロレーヌ風に限らず様々なものがあります。



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タルト・テ・タルティーヌ

パリに旅行した際訪ねた、「tarte the tartine(タルト・テ・タルティーヌ)」は、落ち着いた住宅街の一角にある、青いひさしがかわいいお店。奥では、大きなキッシュを焼き上げるムッシュの姿。

店内には、キッシュとタルトがそれぞれ10種類以上置いてあり、高さのある大きな型で焼き上げられたタルトは、1片買えば十分おなかいっぱいになりそうなボリューム。

あまりにおいしそうな様子に、何種類も食べたくて、もう少し小さく切れないか?と相談するも、素気無く断られてしまったので、なくなく4種類に絞り、その代わり材料の組み合わせをメモさせてもらいました。

キッシュは家庭でもとても一般的な料理で、それぞれの作り方や味があるので、見かける度にどんな素材を組み合わせているかが気になります。

スーパーの冷凍品コーナーでも、キッシュやタルト用の生地が大抵置いてあって、こういったものが、いかに日常的か感じた記憶があります。
市販のものはすでに伸ばしてあり、ラップのようにロール状にしてあるので、保存にも場所も取らず形も崩れず、すぐ使えるのでとっても便利でした。

以来、自分で生地を作る時には、そうやって冷凍保存するようにしています。

お薦めレシピ

今回は、パイ生地よりも作り方が簡単なのに、仕上がりがパイ生地のように層になる、とっても便利なPate Brisee(ブリゼ生地)を使いました。


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<材料> (直径26センチの底の抜けるタルト型)
・pate brisee(パート・ブリゼ/ブリゼ生地) 
-farine 強力粉 125g 
-beurre バター 65g
*1cm角に切り、作業の直前まで冷蔵庫で冷やしておく。 
-jaune d'oeuf 卵黄 1/2個 
-eau 水 30ml 
-sel 塩 1g

・farce(ファルス/詰め物) 
-bacon ベーコン 
-gruyere グリュイエールチーズ

☆これが基本のQuiche Lauraineの具になります。中には何を入れてもかまいません。ジャガイモや玉ねぎ、きのこ、サーモン、鶏肉、魚介、などなど冷蔵庫にあまっているものなんでも。日本で言うお味噌汁的な感覚でしょうか?今回は、ほうれん草・マッシュルームをプラスしてボリュームをつけてみました。  

-epinard ほうれん草 1/2束 
-champignon de Paris マッシュルーム 5個

・appareil(アパレイユ/卵液) 
-lait 牛乳 100ml 
-creme 生クリーム 100ml 
-oeuf 卵 2個
*具の量によって、必要な卵液の量も変わってきます。今回のように具の多い場合は、これくらいの分量で十分です。

・sel、poivre、musucade 塩・こしょう・ナツメグ


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*musucade(ナツメグ)
牛乳などの乳製品の、独特の風味を抑えてくれます。粉末のものが一般的ですが、本当はナッツみたいな形をしています。ホールで買って、使うたびにすりおろすと、とても香りよく仕上がります。


<作り方>
1)ブリゼ生地の材料の強力粉とバターを、フードプロセッサーで混ぜ合わせます。
*もともと真っ白だった強力粉が、バターと混ざるとうっすら黄色になってくるので、その様子を目安にして作業を止めます。
2)1)に水と卵黄、塩を混ぜ合わせた液体を、少しずつ加えていきます。
3)水分が粉と混ざったら台に出して、練らずに上から押さえつけるようにまとめていきます。
☆ここで練り合わせないのが、記事をほろっとパイのように仕上げるコツです。
4)まとまったら形を整えてラップで包み、冷蔵庫で1時間ほど休ませます。
*オーブンを200℃くらいに余熱しておきます。
5)休ませた生地は、2~3mmの厚さにのばし、型に敷きこみます。
6)型の大きさに合わせて切ったオーブンシートを被せ、タルトストーンを詰めます。
7)予熱しておいたオーブンに入れ、温度を170℃に下げ、30分ほど縁がきつね色になるまで焼きます。
8)タルトを下焼きしている間に、材料を切ります。マッシュルームは3mmくらいの薄切り。ほうれん草は5cm長さ。ベーコンは1cm角の棒状。チーズはすりおろしておきます。
9)下焼きしている生地は、縁が色づいたらタルトストーンとオーブンシートをはずし、もう一度オーブンに入れ、軽く底を焼きます。
10)切り分けた材料は、それぞれバターでソテーし、バットに取り出して油をしっかり切っておきます。

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11)下焼きが終わった生地は、刷毛で内側に卵黄(分量外)を薄く塗り、オーブンの余熱で卵の水分を飛ばします。
☆生地の底に卵黄え膜をつくることで、卵液の水分が生地にしみこむのを防ぐことができます。
12)卵液は分量の材料を混ぜ合わせ、塩・ナツメグで味付けしザルで一度濾しておきます。
13)焼きあがった生地に炒めた具を並べ、チーズの一部をふりかけたら、濾しておいた卵液をあふれないようゆっくり加え、残りのチーズをかけます。
14)オーブンに入れ、表面にきれいな焼き色がつくまで焼き上げます。

焼き上がりは、チーズの香ばしい香りが食欲をそそります。

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今日のワイン

本日のワインはこちら。ヒューゲル・エ・フィスのリースリングです。

ヒューゲル社は、「最も高貴なワイン産地の一つ」として名を知られているリクヴィールで1639年からワイン作りを行っている歴史あるワイナリーです。

この地で25ha以上ものブドウ畑を所有し、平均樹齢30年の樹から、化学肥料を使用せず、過剰な収穫をせず、余分な房を落とし、常に手摘みで収穫を行う、などのこだわりをもって、ヒューゲル社の高品質なワインは作られています。

リースリングはアルザス地方の白ワインの代表的品種で、特徴はペトロール香と言われるオイルの香り。

今回のキッシュの生地にはバターがたっぷり練り込まれているので、香りの共通項があります。

アルザス地方とロレーヌ地方はお隣同志で、食文化でも近しい部分もあるので、合わせてみました。

ワインを含むと、口の中の濃厚なキッシュの味わいがすっと和らいで、とてもすっきりとした後味。
キッシュが少し重くて苦手という方でも、機会があればお試しください。


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ヒューゲル・エ・フィス リースリング








青野亜希子 あおのあきこ
料理家 エッセイスト
エコールキュリネール国立(現エコール辻)フランス・イタリア料理専門カレッジ卒。
ル・コルドンブルー料理ディプロム取得、銀座レストラン・ロオジェにて研修。
現在、料理教室開設に向けて準備中。