別冊クリナリオ|ワインエッセー 青野亜希子











フランス家庭料理の代名詞

ブルゴーニュ地方は、パリの東南に位置する地域。

ワインの銘醸地として有名なコート・ドール。
マスタードで知られるディジョン。
川魚、ブレスの鶏、シャロレの牛肉、玉ねぎなどの食材があり、美食の都と言われるリヨン。

他にも、ワイン用ブドウの害虫駆除のために飼育されていたエスカルゴ(かたつむり)や、近郊のドンブという沼地で捕れるグルヌイユ(かえる)などの食材が、ブルゴーニュ地方の料理を多彩で奥深いものにしています。

中でも有名なのは、今やフランス家庭料理の代名詞にもなっている、
Boeuf Bourguignon(ブッフ・ブルギニオン)-牛肉の赤ワイン煮 ブルゴーニュ風。

もともとは、固いお肉を身近にあったワインに漬けこんで、やわらかくして煮込みに使ったことから生まれた料理だそうです。

本来『ブルゴーニュ風』という時には、ベーコンのソテー、マッシュルームのソテー、小玉ねぎのグラッセを添えるのですが、単に『赤ワイン煮』として、ジャガイモのピューレやヌイユといわれる平麺のパスタを添えて出すこともあります。



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Boeuf Bourguignon
牛肉の赤ワイン煮 ブルゴーニュ風


お薦めレシピ

作り方は難しくありませんが、一番のポイントは、1つ1つの手順をきちんとすること。

時間に余裕のある時などに、今回ご紹介する手順を試してみてください。
きっと一味違う仕上がりになります。

<材料>(4人分)
boeuf 牛肩ロース、すね肉、ばら肉など 500g
oignon 玉ねぎ 100g
carotte にんじん 50g
celeri セロリ 50g
ail ニンニク 1片
bouquet garni* ブーケガルニ 1束
farine 薄力粉 10g
tomate bien mure (良く熟した)トマト 1個
concentre de tomates トマトペースト 10g
vin rouge 赤ワイン 500ml
fond de veau フォンドボー 250cc

brocoli ブロッコリー
bacon ベーコン
champignons de Paris マッシュルーム

beurre バター
huile サラダ油

sel・poivre 塩・こしょう

*bouquet garni(ブーケガルニ)
ソースやブイヨンに香りをつけるために加える香草類を、散らばらないように糸で束ねたもの。パセリの茎、タイムの小枝、ローリエが一番シンプルで、さらにセロリ、ポロネギ、セージなどを加えることもある。


<下準備>
①玉ねぎ、にんじん、セロリは1cm角に切り、ブーケガル二、大きめに切り分けた肉(焼き縮みするので、5cm角よりもやや大きく)と一緒に、分量の赤ワインに漬け込みます。
☆このひと手間で、お肉がとても柔らかく仕上がります。最低でも3時間、できれば1晩くらいできると理想的です。肉を漬ける前、後の柔らかさの違いを、ぜひ確かめてみてください。

②①から肉を取り出し、キッチンペーパーでしっかり水気を切っておきます。

③赤ワインと野菜は、ザルで濾して別々にしておきます。

④トマトは粗く刻んでおきます。

⑤オーブンを250℃くらいに余熱しておきます。
*ご家庭のオーブンは、扉を開け閉めすることで温度がかなり下がりますので、高めの温度で余熱しておくといいと思います。

<作り方>
①肉に塩・こしょうで下味をつけます。
*下味の強さは、肉の大きさに合わせて変えます。大きいものならそれに比例して、少しきつめに下味をつけます。

②鍋にバターを溶かしてから肉を並べ、やや強火で表面にきれいな焼き色を付けます。
☆フランス語でこの作業をsaisir(セジール)といいます。表面を焼き固めることで肉の旨みを閉じ込めます。

③肉が焼けたら一旦バットに取り出し、アルミホイルを被せ保温しておきます。

④鍋の中の油を捨て、余熱でまだ温かい鍋にバターを入れて溶かします。そこに、赤ワインと分けておいた玉ねぎ、にんじん、セロリ、叩き潰した皮付きのニンニクを入れ、火をつけず余熱でしばらく炒め、野菜の水分で鍋底に張り付いた肉の旨みをこそげ取ります。
*鍋底をきれいにしておかないと、煮ている間に底にこびりついて、焦げの原因になります。

⑤再び火をつけ、弱火で野菜がしんなりするまで炒めたら、薄力粉を振りかけ軽く炒めます。
☆フランス語でこの作業をsinger(サンジェ)といいます。

⑥トマト、トマトペーストを加え、他の野菜となじませます。

⑦少し火を強め、ぱちぱちという音がしてきたら赤ワインを一気に加え煮立てます。

⑧一旦火を弱め、フォンドボー、ブーケガルニを加えてから再び火を強めます。

⑨灰汁が出てきたらある程度とり、紙蓋、鍋の蓋をして200℃のオーブンに入れ、2時間くらい煮込みます。
*1時間くらいしたら鍋を取り出し、肉が液面から出ていたら、乾燥しないよう肉にかぶるくらいのお湯を足します。フォンドボーなどを加えてしまうと、仕上がりの味が濃くなってしまうので、ここでは味に影響のない液体を加えます。

⑩肉が十分柔らかくなったらオーブンから取り出し、常温でゆっくり冷まします。完全に冷めたら、1晩そのままにして寝かせます。
*時間がなければこの手順は飛ばしてもOKです。

⑪肉を取り出し、表面が乾燥しないようラップをかけておきます。煮汁はザルにあけ、あまり野菜をつぶさないよう注意しながら濾します。
*一晩寝かせた場合は、一度温めなおしてからこの作業をしてください。

⑫煮汁は肉にかかるくらいの濃度まで煮詰めます。その間、灰汁が出てきたり脂が浮いてきたら根気よく取り除きます。

⑬別の鍋で、赤ワイン300ml(分量外)を半量くらいになるまで煮詰めます。
*もしワインが余分になければ、この手順は飛ばしてもOKです。

⑭煮汁に濃度がついたら、一度沸騰させて火を止め、1cm角に切った冷えたバター(分量外)を溶かし込みます。
☆フランス語でこの作業をbeurre monte(ブールモンテ)といいます。
 味の尖り(酸味)が和らぎ、ソースに適度な濃度とつやが出ます。ただ、この作業の後、煮汁を沸騰させてしまうと、煮汁となじませたバターが分離してしまうので、温め直すときは注意してください。

⑮仕上げに、⑬を少しずつ加え、煮汁の色を深めると同時に味を引き締めます。
*酸味が強くなりすぎたら、砂糖を少し加えてください。

⑯お皿に付け合わせの野菜とお肉を並べ、ソースをたっぷりかけて仕上げます。
*今回の付け合わせは、ブロッコリーの塩茹で、ベーコンとマッシュルームのソテーにしましたが、お好みでご用意ください。

今日のワイン

今日のワインは、Cotes du Rhone Rouge “Belleruche” コート・デュ・ローヌ ルージュ“ベルルーシュ”

ローヌ渓谷の雄として知られるM. シャプティエ社のワインです。
1808年、ローヌ川に面しエルミタージュの丘の麓にある街、タン・エルミタージュに創立し、現在はエルミタージュ、サン・ジョゼフ、コート・ロティ、コンドリュー、クローズ・エルミタージュの北部ローヌはもちろん、南部のシャトーヌフ・デュ・パフにいたるまで、350ヘクタールの自社畑を所有しています。

“Belleruche”ベルルーシュの意味は、ベル(=美しい)、ルーシュ(=ミツバチの巣箱)の意味です。

品種はシラー50%(ワインに骨格を与えます) 、グルナッシュ 50%(丸みと繊細さ、花の香りを与えます)

収穫は手摘みで行われ、醸造、熟成を行い約15日間発酵させます。一部は樫の小樽で、その他は大樽で6ヶ月熟成の後、翌春ブレンドされます。

色は紫がかったガーネット色で中心部に濃い色合い。香りは赤い果実の熟した香りと、古木、スパイス、草などの香りがあります。味わいは口当たりがやわらかくコクがあり、果実味豊かで甘みをはじめに感じますが、あとから心地いい酸味と渋みが追ってきます。

今日のようなしっかりした味の料理は、その味わいを殺さず、かつその重さを和らげるようなワインがよく合いました。


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Cotes du Rhone Rouge “Belleruche”
コート・デュ・ローヌ ルージュ“ベルルーシュ”








次回は、ロレーヌ地方の料理キッシュロレーヌとアルザスワインについて、お届けする予定です。









青野亜希子 あおのあきこ
料理家 エッセイスト
エコールキュリネール国立(現エコール辻)フランス・イタリア料理専門カレッジ卒。
ル・コルドンブルー料理ディプロム取得、銀座レストラン・ロオジェにて研修。
現在、料理教室開設に向けて準備中。